2020-12-22

東京工業大学情報通信系の計算機システム関連の研究室の紹介


はじめに

佐々木は 東京工業大学情報通信系 という組織に属しています。研究分野は主に計算機アーキテクチャやコンピュータセキュリティ、性能解析で、一般にはコンピュータサイエンスにおける計算機システム分野に分類されます。これらは CSRankings では Systems 分野における Computer Architecture や Computer Security、Measurement & perf. analysis、CSmetrics では Architecture、Performance Analysis、Security、Systems などが該当します。情報通信系には他にも計算機システム分野の研究をしている研究室があって、それぞれの研究内容はオーバーラップしていたりします。そのため佐々木の研究分野に興味がある方はそれら他の研究室の研究内容にも興味があるかもしれません。ところが各研究室の研究内容の違いというのは外からではなかなか分かりづらいと思います。そこで想定読者を主に情報通信系の研究室に進学することを目指す方々1として、研究室選びの材料としてもらうことを目的にこの文章を書いています。佐々木の研究分野と近い研究室をリストアップし2、その研究内容について簡単に紹介したいと思います3

その前に

コンピュータサイエンスの Systems(ここでは計算機システム、と訳します)分野について俯瞰してみます。CSRankings では計算機システム分野は 12 の分野から成るものとしています:

  1. Computer architecture(計算機アーキテクチャ)
  2. Computer networks(コンピュータネットワーク)
  3. Computer security(コンピュータセキュリティ)
  4. Databases(データベース)
  5. Design automation(設計自動化)
  6. Embedded & real-time systems(組み込み・リアルタイムシステム)
  7. High-performance computing(高性能計算)
  8. Mobile computing(モバイルコンピューティング)
  9. Measurement & perf. analysis(性能測定・解析)
  10. Operating systems(オペレーティングシステム)
  11. Programming languages(プログラミング言語)
  12. Software engineering(ソフトウェア工学)

ハードウェアにあたるものが 1 でソフトウェアにあたるものが 10、11、12。現実的なシステムを考えると必要となる技術が 2、3、4。応用にあたるものが 6、7、8。あと 5 はやや 6 と関連が深い設計自動化という手法全般、9 は様々な文脈で行なわれる基礎的な解析全般を含みます。

2020 年 12 月現在、情報通信系で主に扱っている分野は 1、2、3、5、6、7、8、9 あたりで4、下記に紹介する研究室が該当するのは 1、3、5、6、7 だと思います5。研究室名の横に番号を独断で添えておきます。基本的にはハードウェア寄りで、かつ 5 と 6 に含まれる研究を主とする研究室が多そうです。あいうえお順でいきます。

一色研究室 [3、5、6]

教員は 一色教授李助教。ハードウェア・ソフトウェア設計を統一的なソフトウェアフレームワークで可能にする技術 C2RTL に関する研究開発を活発に行なっています。C2RTL は LLVM コンパイラ基盤上に実装された、C/C++ で SoC(システムオンチップ)などシステム全体の設計・検証を可能とする技術であり実用性が高いと思います。その他にも広く計算機システムに関する研究を手がけている印象です。また一色先生が海外で PhD を取得されていることや留学生を多く抱えていることから国際的な環境と言えると思います。

高橋研究室 [5]

教員は 高橋教授、田湯助教、佐藤助教。この中ではもっとも下の(物理に近い)レイヤーを扱う研究室です(佐々木の研究分野からはもっとも遠いです)。デジタル集積回路の論理設計、レイアウト設計などの研究を手がけています。より高性能な集積回路を実現するために、クロック、フロアプラン、配置、配線、パッケージ等に関して組み合わせ最適化問題として定式化し、計算機による自動設計を可能とする様々なアルゴリズムを提案しています。この中ではもっとも廃れにくい研究をしていると言っても良いかもしれません。

中原研究室 [5、6、7]

教員は 中原准教授。主に FPGA と呼ばれる再構成可能(リコンフィギュラブル)な LSI を用いて特定のアプリケーションを高速化・効率化する研究を 広く手がけています。また最近は FPGA を用いた高性能計算分野の研究にも携わっているそうです。中原さんはニューラルネットワークの FPGA 実装にかけては第一人者として知られているうえ、2020 年には ベンチャー企業 を立ち上げ精力的に活動しており社会に即還元できる実践的な研究を行なっているのが特徴だと思います。

原研究室 [3、5、6]

教員は 原准教授。組込みシステム(汎用の計算機ではなく、家電製品や自動車など特定の処理をする製品に「組込まれている」システム)の最適化や自動設計に関する技術をハードウェア・ソフトウェアの両面から 広く研究しています。組み込みシステムに興味があったら原研一択だと思います。原さんを含め女性の在籍者が多く、様々な国の留学生が多数在籍する最も国際的かつダイバーシティの進んだ研究室です。

本村・劉研究室 [1]

教員は 本村教授劉准教授Thiem Van Chu 助教科学技術創成研究院(IIR)に 2019 年に発足した新しい 研究ユニット AI コンピューティング研究ユニット(通称 ArtIC)です。この中では唯一すずかけ台キャンパスに研究室があります。ユニット名が示すとおり次世代 AI 処理をターゲットにした計算機システムの研究をしています。本村先生が企業出身なことも関係していると思いますがアクセラレータのアーキテクチャの提案だけでなく実チップの設計まで手がける点が特徴的です。教員も多く大きなプロジェクトを多数抱えており「ビッグラボ」と言って良いと思います。

まとめ

各研究室の簡単な紹介をしてみました。ざっくりと、C/C++ でハードウェアを記述することに興味があれば一色研、チップの設計技術そのものに興味があれば高橋研、FPGA で動く実用的なものが作りたかったら中原研、組み込み技術に興味があったら原研、次世代の計算機アーキテクチャ技術に興味があったら本村・劉研、という感じでしょうか。ちなみに情報通信系の中の位置付けでいうと佐々木の研究室は汎用の計算機アーキテクチャ研究に軸足を置いていることが特徴だと思います。一色研、原研、本村・劉研とは興味がオーバーラップする点があります。

ここでは研究内容に焦点を当てましたが研究室選びは研究内容だけでなく様々なことを考慮した方が良いので、是非直接各研究室の教員や学生から話を聞いて自分に合う研究室を探してほしいです。この文章がどなたかの参考になれば幸いです。


  1. 研究室仮配属を控えた情報通信系の三年生や、大学院への進学を考えている方々などがあたるかと思います。 

  2. 私見です。 

  3. 佐々木は情報通信系に着任してまだ日が浅いため各研究室について詳しく把握できているわけではないことをご了承ください。 

  4. 佐々木の専門は 1、3、9(および 10 と 11 を用いる場合もある)です。 

  5. 情報通信系で 2 や 8 に該当するのは 府川研究室山岡・北口研究室西尾研究室 だと思いますが佐々木の研究分野からは比較的遠いので今回は除外しています。